スーパーサラリーマン・田端信太郎さんに“レバレッジの極意”を聞くインタビューの第2弾。
前回「レバレッジは価値中立のツールである」と、“レバレッジの本質”を説いてくれた田端さん。
本質はわかったけど、どうやってレバレッジを使ったらいいんだろう? 具体的に何をやったらいいんだろう? 田端さんに聞くと…。
「当たり前のことを当たり前にやるだけですよ。」
ド直球のド正論が返ってきました。はたして田端さんの発言の真意とはいったい?
リクルート、ライブドア、LINE、ZOZOと、数多くの有名企業を渡り歩き、さまざまなプロジェクトを管理監督者の立場として経験した田端さんだからこそ語れる“レバレッジ活用術”に迫ります!
<レバレッジ2.0 田端信太郎が語るレバレッジの極意> 連載記事一覧
①「レバレッジは価値中立のツール」田端信太郎が教える“レバレッジの本質”
②「当たり前のことをやれ」田端信太郎が語る“レバレッジ活用術”はド直球のド正論だった
③「時間価値と人生の経営マインドを意識すべし」田端信太郎が伝授する“レバレッジの心構え”
会社に属することだってレバレッジ
スーパーサラリーマンと呼ばれる田端さんに、仕事で使えるレバレッジがあればぜひ教えていただきたいのですが…。
僕にとって会社に勤めるということが実はレバレッジなんですよ。
え? レバレッジ活用にはリスクもあると思うのですが、会社勤めは、その逆のイメージがありますけど。
会社勤めだって意に沿わない仕事を押し付けられるかもしれないし、転勤があるかもしれないし、変な上司がきてパワハラされるかもしれないし、リスクなんていっぱいあるじゃないですか。
それもそうか…。では、どんなレバレッジがかかるんですか。
僕がギタリストだとしたら、会社はギターアンプであり、ステージなんですよ。別に一人で駅前のストリートミュージシャンやっていてもいいけど、それよりは、会社が用意してくれるステージで演奏して、でかいギターアンプを鳴らした方が、よりたくさんの人に聞いてもらいやすいよねと。
自分の仕事をより多くの人に届けられるのは、会社というレバレッジを活用しているからこそというわけですね。
でも、そこにステージ監督がでてきて、「うちはロックじゃなくてハワイアンをやりたいんだ。そのうるさいギターやめてくれる?」と言われるんだったら、そこは音楽性の不一致で、「じゃあ僕、お呼びじゃないんで」と言って去ればいい。それは別にどっちが悪いわけでもないですよ。
割り切った関係にも感じてしまいますが…。田端さんがリクルート時代に手がけたR25(※)の立ち上げも、そういう考えを持っていたからこそ出来たことなんでしょうか。
そうそう。だって自分のお金では絶対にできないですよ。
いやらしい言い方すると、レバレッジとは、他人のお金と時間をうまく使うことだと言えるんですよ。
ビジネスの場面では避けて通れない話ですね。
ただ、R25の立ち上げ時、当時の上長に言われたんですけど…。「田端、おまえのポケットマネーがこのプロジェクトに投資されるとしてもおまえこれできるか、やるか」と。「もちろんです」と答えた。「じゃあお前のご両親の老後資金がここに投資されるとしたらどうなんだ」と言われて。
それは痛いところをつきますね…。
その瞬間、さすがに言葉に詰まりました(笑)。こんなハイリスクな案件はさすがにだめだと。他人のお金と時間をうまく使えるからって、悪ノリすると、それはタダ乗り。ただのサラリーマン根性なんだってことを、諭されたんです。
利用することばかりを考えてもいけないということですね。
今のは雇われている側が会社を利用するという話ですが、経営する側が悪ノリすると、いわゆるモラルハザードとか、ガバナンスがきいていないという話になるんです。
ああ、大企業の偉い人が不祥事を起こしたとか、謝罪に追い込まれたとか、結構ニュースで見る気がします。
それは、レバレッジの使い方を誤った結果。レバレッジをかけすぎて、テコの側がもう擦り切れちゃうというね。
片方が一方的に利用しすぎると問題が起こると。
道具と違って会社が面白いのは、人間と人間がやっているということ。物理的なテコでは、棒切れが意思を持つことはないですけど、人間は違いますから。利用する、されるの関係で、一方が利用しまくっていると、されている方から「いい加減にしろお前」って言われる。それはやっぱりほどほどにWIN-WINで、相互に利益がないと続かないですよね。
信用こそ最大のレバレッジ。当たり前のことを当たり前にやれ!
でも、タダ乗り上等な人も出てきそうです。過去のインタビューで、接待の経費を落とす人間=フリーライダー(タダ乗りする人)というお話をされていましたが、これはまさに、会社というレバレッジを自分のためだけに使ってしまっている例ですよね。
そういうことを僕がなぜしないようにしているかというと、“信用”こそ最大のレバレッジだと思っているからなんです。
信用…。確かに、信用がない人にお金や時間をかけたいとは思わないですね。
そう。だから、例えば僕が妻と外食したのを接待交際費で落としたとして、それは別に5,000円か1万円の問題かもしれないですよ。でも、それで信用が失われることの方が僕からしたらよっぽど恐ろしいわけです。
得られるものに対して、失われるものの価値の方が大きすぎますね。
そういうところに関しては、管理監督者として、めちゃくちゃ慎重です。こう見えて。経費に限らず、部下へのパワハラ、セクハラといった問題とかもそうですけど。そこでリスクを取る気は全然ないんですよ。Twitterでは炎上したりもするんですけど(笑)。
Twitterでの炎上は気にしないんですか(笑)?
インターネット上で、会ったこともない人から批判されるのは全然OKなんですよ。Twitterはあくまで個人的なオピニオンを発信しているだけだから。…だけど、会社の先輩や後輩、クライアントとか、直接の知り合いに顔出し実名で批判されたらグサッときますね。ビジネスパーソンとしての信用が傷つくということだから。
信用を守る、あるいは築くにはどうすればいいでしょう。
当たり前のことを当たり前にやるだけですよ。言ったことは守る、嘘をつかない。
言われると当たり前のことですが、実際にやるのは意外と難しいことかもしれません。よかれと思ってつい嘘をついてしまう、なんてことが身に覚えがある人は僕も含めて多いはず…。
これ僕のささやかな自慢なんですけど、講演やセミナーを数百回か数千回ぐらいやっていて、穴を開けたことがないんです。ぎっくり腰になったときにも、行ったことありますもん。
信用を積み重ねるためには、実直であることが大事というわけですね。
最低限これは守ってくれる人だと思われることに、ものすごいレバレッジがかかるんですよ。
レバレッジ活用は、社会人としての基本的なことからすでに始まっているんですね。
初歩的なことのようで、実は一番難しい。信用を積み重ねるには年単位の時間がかかるけど、失うときは一瞬ですから。
信用を問われる、試される場面は誰しもが経験しますよね。仕事で大きいミスをしたときとか…。
特に僕は管理職や役員としての立場上、そういう場面で選択を迫られるわけですよ。道徳の授業みたいに。何か大きい問題が内部で発覚したときにクライアントに報告にいくか、しれっと問題の対処だけ済ませるか。
胃が痛くなる話ですね…。 それはどっちが正解かというと…。
直ちに謝罪に行くことです。それが僕にとって保身になるんですよ。「これはまずいから伏せろ」と現場に伝えて、ずっと隠しきれるならそれでいいかもしれないけど、絶対なんてことはないじゃないですか。一番ローリスクなのは、知った瞬間から正しいと思うことをやることです。
でも、なかなか勇気がいりませんか? そのせいで評価が下がったり、あるいは仕事を失ったりする可能性も…。
極論、クビになってもいいと思いますよ。それでクビになったとしても、また拾ってくれる人もいます。逆に、何か不正が発覚して「それを握りつぶせ」と言ったなんて知られたらアウトですよ。
信用を軽視する方が問題だと。とはいえ最近は、企業の不正が問題になることも多いですよね。
個人の信用より会社の信用の方が大事だと思っちゃったんでしょうね。僕からすると、一個人としての信用の方が会社の信用より大事ですから。
会社と個人の関係も変わりつつありますもんね。終身雇用は限界だという話もありますし。
雇用が流動化している現代社会では、個人としてサバイブしていく上で、当たり前の気構えだと思うんですよ。こんな悪事の片棒担ぐぐらいなら辞めるということ。そんな人がたくさんいる会社の方が結果的に悪事は起こらないから、健全だと思うんですけどね。
レバレッジを使わないならお好きにどうぞ?
レバレッジは、リスクを恐れない人ほど有利なのかと思っていました。でも、信用を築くということであれば、誰もが同じスタートラインに立てそうです。
別にみんながやる必要ないと思いますけどね。
え!?
人それぞれの人生なので、飛行機に乗りたくないと言っている人はそりゃどうぞご自由にと。それで別にいいじゃないですか。飛行機に乗る便利さとか、海外旅行は楽しいですよって思いもあるけど、どうしても嫌だって人を無理やり連れていこうとまでは全然思わない。
意外です。田端さんならケツを叩いて急き立てるぐらいのことはするかと…。
逆に世の中の人が全て僕ぐらいレバレッジを意識するようになると、僕が相対的な優位を失うんで(笑)。
なるほど…(笑)。自分の部下に対してはどうですか?
それは言いますね。僕の周りもレバレッジを使ってくれないと、ネットワーク効果が働かないんで。
ネットワーク効果…?
例えばいまだに社内の連絡手段が電話やFAX中心の会社Aと、LINEやSlackなどのメッセンジャーアプリ中心の会社Bがあったとします。社員の能力に差がなく、同じ頭数が揃っているA、Bの会社が競合したら、意思疎通を効率よくできるBの会社の方が勝ちますよね。
なるほど。確かにビジネスシーンでは自分が使うだけではなく、周りを巻き込んでいかないと効果がないですね。
今の世の中、格差がどんどん開いていますけど、僕に言わせたら、個人の能力の差はそんなにない。レバレッジを有効に使う企業や人がどんどん格差の上に行っているということ。その場に停滞し続けるのはレバレッジがうまく使えていないせいなんですよ。
能力に差がないというのは意外な感じがします。
人間の身体的な能力の差って、せいぜい2、3倍ぐらいですよ。頭脳労働ではもう少し差があるかもしれないけど、それでもそこまで大きな差にはならない。
言われてみればそうかもしれないです。
でも、レバレッジのかかり方が高くなると、その差が一気に開いていく。未開社会で人間が狩猟採集やっていたときより、今の方がよくも悪くも格差が開いているというのは、レバレッジをうまく活用できるかどうかの差なんですよ。
人間の能力が進化したというより、レバレッジが進化しているという…。
上に行けないというのは、努力が足りないんじゃなくて、そもそもレバレッジの使い方がわかってない。
前回、レバレッジを使うことは抜け駆けじゃないかという話題がありましたけど、努力が報われるためにはむしろ積極的にレバレッジを使った方がいいということですね。
自分の家族や部下、この記事を読んでいただいている人にも、レバレッジを使った方が有利なんだと意識を変えた方が、ハッピーに生きられるはずだということは伝えたいです。
−−最も基本的でありながら、最も難しいレバレッジは「信用」。
数多くの企業を渡り歩き、ビジネス経験豊富な田端さんが実践するレバレッジ活用術は、リスク上等の精神で勝負しまくれ! ということばかりではなく、意外にも、実直に信用を得ることから始まるというシンプルなものでした。
次回はいよいよインタビュー最終回。私たちが明日からレバレッジを使いこなすために必要な“レバレッジの心構え”を田端さんに伝授してもらいます!
次回 「時間価値と人生の経営マインドを意識すべし」田端信太郎が伝授する“レバレッジの心構え”
・当記事に掲載の情報は、すべて執筆者および取材対象者の個人的見解であり、大和投資信託の見解を示すものではありません。
この記事の連載を読む
レバレッジ2.0 田端信太郎が語るレバレッジの極意
株式会社ケイ・ライターズクラブ所属。編集者兼ライターとしてビジネス関連の媒体制作に多数携わる。老後資産に必要な2000万円を貯めるべく、フィーリング重視の個人投資を始めたばかり。塩漬けになりつつある株の様子をチェックするのが日課。失った時間は戻らなくとも、失ったお金は取り戻せると信じている。