「FIRE」とは資産運用で早期リタイアを実現すること
FIREは、「経済的自立(Financial Independence)」と「早期リタイア(Retire Early)」の頭文字を取った言葉です。若いうちに資産を形成し、その運用益により自由な生活を送ることを指しています。
従来の「早期リタイア」との違いは?
従来の「早期リタイア」は、ビジネスで成功を収めたり、多額の遺産を相続したりするなど、一生働かなくても困らないほどの財を成すことが前提となっていました。リタイア後は働いてお金を得ることはなく、資産を切り崩して生活することに。そのため、老後も資産が底をつかないよう、多額の貯蓄を用意する必要がありました。
それに対し、FIREは資産運用によって生計を立てるライフプランです。従来の早期リタイアのように億単位の財産を築く必要はないため、誰にでもチャンスがあります。FIRE達成に必要な金額を資産運用によって築き、運用益で生活できるめどが立ったらリタイア。その後は資産運用を続けながら、自由に暮らすことができます。
「サイドFIRE」とは?
資産運用だけでなく、副業などの勤労収入と合わせて生活するのが「サイドFIRE」です。メリットは、勤労収入があるため、FIREよりも少ない資金で始められること。また、好きな仕事をしながら社会とつながりを保てるのも、サイドFIREの魅力です。
FIREのメリット・デメリット
FIREを達成すると、仕事に縛られずに自由な生活を送ることができます。その一方で、注意すべき点も。FIREを目指すにあたり、そのメリット・デメリットも把握しておきましょう。
FIREの主なメリット
仕事から解放される
経済的に自立した早期リタイアにより、生活のために仕事をする必要がなくなり、自由に暮らすことができます。趣味やボランティア活動などを中心にした生活スタイルにすることも可能です。
好きな場所で好きなことをして暮らせる
好きなように時間を使えるため、住む場所を選ばず、自由な生活を送ることができます。
お金に関する知識が広く身につく
資産運用を行うことで、金融商品や税金制度などお金に関する知識が身に付きます。
FIREの主なデメリット
資産運用が計画通りにいくとは限らない
資産運用にはリスクがあり、想定通りの運用益を得られるとは限りません。また、病気やケガ、家族の介護などにより支出がかさみ、思い描いていたライフプランを実行できないケースもあります。
生きがいがなくなる
仕事を辞めることで社会との接点が少なくなり、人によっては生きがいを失ってしまう場合があります。
再就職が難しくなる
年齢を重ねてからFIREすると、一度キャリアが途絶えるため、再度働こうとしても思い通りの仕事に就けなくなる可能性もあります。そのため、本当に早期リタイアしても問題ないか、ライフプランを良く考えて決断するのが良いでしょう。
FIRE達成のために資金はいくら必要?
FIREを実現するために必要な資金を算出していきましょう。
まず計算するのは、FIRE後の生活に必要な1か月の支出です。住居費、水道光熱費といった固定費、食費や交際費などの変動費の他、健康保険料、国民年金保険料も含めておいたほうが良いでしょう。また、将来起こり得るライフイベントや、病気などのリスクに備え、一時的な支出を加味して多めに見積もることも重要です。
また、65歳(または60歳)以降は年金が支給されます。将来的にもらえる年金額をシミュレーションし、年金支給開始以降のライフプランも考えておくと良いでしょう。
FIRE達成の条件「4%ルール」とは?
FIRE達成に必要な金額は、年間支出額の25倍とされています。この25倍は、「資産を年利4%で運用し、その収益で生活する」というアメリカの「4%ルール」に基づいています。
4%とは、米国株式市場の成長率7%からインフレ率3%を引いた数値で、米国株式に投資すれば年間4%の運用益を見込めることになるという考え方です。つまり、元本の4%を年間支出額にすると、元本を減らすことなく運用益だけで生活し続けることができるというわけです。
FIRE達成に必要な金額を算出
1か月の支出を決めたら、年間支出額を計算し、FIRE達成に必要な金額を算出しましょう。計算方法は前述した4%ルールに基づき、「1か月の支出×12か月×25倍」です。
例えば、持ち家で家賃がかからない夫婦二人世帯で、自炊中心で時々外食をするくらいなら、1か月の支出は25万円程度。年間支出額は300万円で、FIRE達成の目標金額は7,500万円です。外食を頻繁に楽しみ、年に一度は海外旅行をするなら、1か月の支出を40万円として計算するといいでしょう。年間支出額は480万円、FIREに必要な資金は1億2,000万円になります。
FIRE達成のための資金を形成するには?
FIREに必要な金額を効率的に貯めるには、資産運用が欠かせません。ここでは、資産運用によってお金はどう増えていくのか、投資先による資産の増え方の違いや、FIRE達成に必要な資産運用期間などを見ていきましょう。
資産運用による元本1,000万円の変化
例えば55歳でのFIRE達成を目標にすると、30歳なら25年、40歳なら15年にわたって資産運用ができます。以下の表は、元本1,000万円を預貯金、REIT、日本株、外国株に投資した場合の、5年ごとの運用結果です。各資産の年利は、2003年末から2018年末まで10年間保有したときの年率リターン平均を採用し、算出しています。
<元本1,000万円の運用結果>
運用期間 | 預貯金 (年利0.1%) |
REIT (年利6%) |
日本株 (年利3%) |
外国株 (年利7%) |
---|---|---|---|---|
5年 | 1,005.01万円 | 1,338.23万円 | 1,159.27万円 | 1,402.55万円 |
10年 | 1,010.05万円 | 1,790.85万円 | 1,343.92万円 | 1,967.15万円 |
15年 | 1,015.11万円 | 2,396.56万円 | 1,557.97万円 | 2,579.03万円 |
20年 | 1,020.19万円 | 3,207.14万円 | 1,806.11万円 | 3,869.68万円 |
25年 | 1,025.3万円 | 4,291.87万円 | 2,093.78万円 | 5,427.43万円 |
同じ1,000万円を投資しても利回りが異なると、運用益には大きな差が生じます。さらに、運用益を元本にプラスして再投資する複利運用のため、投資期間が長くなるほど得られる収益も年利が高いほど増加。例えば年利0.1%の預貯金と年利7%の外国株では、25年後に4,400万円以上もの差がつくことになります。ただし、投資に絶対はなく、預貯金以外は元本割れのリスクがあることを念頭に置いておく必要があります。
目標金額を達成するために必要な運用期間と毎月の投資額
次に、55歳でのFIRE達成を目指す場合、必要な毎月の投資額はいくらになるのか見てみましょう。投資開始年齢を30歳、35歳、40歳、45歳に設定し、想定利回り5%の金融商品に投資した際の、55歳までに必要な毎月の投資額を算出しました。
<55歳でFIREを実現するため必要な毎月の投資額>
開始年齢 | 運用期間 | 目標金額7,500万円の場合の毎月の投資額 | 目標金額1億2,000万円の場合の毎月の投資額 |
---|---|---|---|
30歳 | 25年 | 12万6,000円 | 20万2,000円 |
35歳 | 20年 | 18万3,000円 | 29万2,000円 |
40歳 | 15年 | 28万1,000円 | 44万9,000円 |
45歳 | 10年 | 48万3,000円 | 77万3,000円 |
若いうちから長期にわたって運用すれば、毎月の投資額を低く抑えられ、複利効果により資産を効率良く増やすことができます。ですから、必要資金を用意するためには1日でも早く投資を始めて、複利効果を活かしながら資産形成を行うのがおすすめです。積立投資であれば少額から始められて無理なく投資を継続できるので、できるだけ早く投資を始めたほうが良いでしょう。
必要資金を形成できる主な金融商品
FIRE達成に必要な資産額や毎月の投資額が決まれば、次は資産を形成できるように金融商品に投資を開始します。投資先には、株式、債権、REIT、投資信託、ETFなどさまざまな金融商品がありますが、それぞれどのような特徴があるのか見ていきましょう。
株式
株式投資は、上場企業が発行する株式を購入し、値上がり益や配当で利益を得る投資方法です。値上がりにより大きな収益が期待できる反面、株価が下落するリスクも大きいため、収益を得るにはある程度の知識や経験が必要です。
債券
国や地方自治体、企業、国際機関、外国の政府・企業などの発行体が、資金調達の見返りに発行する証書です。債券は借用書に相当し、利率や償還日などが定められており、発行体などが破綻しない限り、保有している間は利子を受け取れ、償還時には額面金額が払い戻されます。また、他の金融商品と比べてリスクが低いとされています。
REIT
投資家から集めた資金を主に不動産で運用し、その賃料や売却益を分配する不動産投資信託です。分配金による安定した収益を見込めますが、景気変動や不動産市況の影響を受けやすいため、REIT価格は比較的大きく値動きします。
投資信託
専門家に資金を預け、運用を代行してもらう金融商品です。少額から投資が始められ、専門家に一任できるので、投資初心者にも向いています。専門家は複数の銘柄を組み入れて投資信託商品を作るため、投資信託に投資することは分散投資することにもつながります。
ETF
金融商品取引所に上場している投資信託です。投資信託のように専門家に任せて分散投資ができ、株式のようにリアルタイムの価格(成行)や指値で取引できるのが特徴です。
分散投資のすすめ
金融商品にはさまざまな種類があり、利回りやリスクはそれぞれ異なります。場合によっては、損失が生じて資産が減る可能性も。そのため、リスクを抑え、安定したリターンを目指すには、分散投資がおすすめです。分散投資には「銘柄分散」「資産分散」「時間分散」などがあります。
銘柄分散
銘柄分散とは、同じ金融商品の中で複数の銘柄に投資することです。例えば、A社銘柄のみに投資すると価格変動の影響を大きく受けてしまいますが、A社の株式、B社の株式、C社の株式など、異なる値動きをする複数の銘柄に分けて投資すれば、業績不振や倒産などで価格変動がA社株式に起きた場合のリスクを低減することができます。また、投資信託やETFによっては、株式や債権、REITなどの複数の銘柄を組み入れて運用するため、一つの金融商品で手軽に銘柄分散を行うことができます。
資産分散
資産分散とは、一つの資産に限定せず、株式、債券、REITなど、投資対象を分散させること。値動きが異なる複数の金融商品に投資することで、価格変動リスクをある程度抑えられ、安定的な運用を目指すことができます。その際、投資先地域も分散させるといいでしょう。
時間分散
時間分散とは、一度にまとまったお金を投資するのではなく、複数回に分けて一定額を投資することです。同じ銘柄を毎月一定金額購入し続ける「ドル・コスト平均法」もこの投資手法にあたり、購入時期を分散させることで、価格変動リスクを低減することが期待できます。
まとめ
FIREを目指すなら、まずリタイア後の生活をイメージし、必要な資金を試算するところから始めましょう。FIREに向けて資産を築くには、資産・時間を分散させて投資を行うのがおすすめです。自分で働いてお金を貯めるだけでなく、お金にも働いてもらい、資産を増やしていきましょう。
複利効果を活かし、時間をかけてコツコツ積み立てればFIREも夢ではありません。「投資初心者なので、少額からでも積立投資を始めてみよう」「今が投資のチャンスなので、まとまったお金を投資してみよう」など、ライフプランや投資知識に合わせて投資方法や投資額を検討し、FIREへの一歩を踏み出してはいかがでしょうか。