Special Column

NASDAQ100の銘柄入れ替えで見えてくる成長の原動力

毎年12月、サンタクロースがやってくる直前、NASDAQ100指数は銘柄の定期入れ替えを実施する。指数コンセプトに合致するよう時価総額の大きい100社を指数構築ルールに従って入れ替える。2021年12月は6銘柄の入れ替えがあった。 新規に採用されたのは、

エアビーアンドビー 民泊オンラインサービス
フォーティネット IT(セキュリティ関連)
パロアルトネットワーク IT(セキュリティ関連)
ルーシッド・グループ 電気自動車
ゼットスケーラー IT(クラウドサービス、セキュリティ関連)
データドッグ IT(クラウドサービス)

の6社であった。エアビーアンドビーは日本でも大きくビジネス展開しているのでご存知の方も多いであろう。同社は2020年12月にIPO(新規上場)したばかりの会社だ。
替わって、当然だが6社が指数から除外された。
CDW(コンピュター関連機器販売)、フォックス(メディア)、サーナー(医療情報サービス)、チェックポイント(ITソフトウェア)、トリップドットコム(オンライン旅行予約、中国籍)、インサイト(バイオ医薬品)。
業種だけ見るとまだまだ成長余地の大きいビジネスではあるが、交替を余儀なくされた会社である。
NASDAQ100指数はどのように構築されているのか、銘柄入れ替えのルールはどうなっているか。ここに、NASDAQ100指数成長の原動力が垣間見られる。

指数入れ替えメソドロジー

指数に採用されるためには、NASDAQ市場に上場されており、売買流動性が一定以上あるものが採用される。外国企業でも株式やADRが上場されていれば可能だ。なお、金融セクター銘柄、REIT証券は対象銘柄から除外される。
この中から時価総額(発行済み株式数x株価)の大きいほうから100銘柄が選ばれる。
大まかにいえば上記の通りだが、年1回12月の銘柄入れ替えにあたっては以下のステップを踏む。

まず、対象企業の時価総額を、前月11月末の発行済み株式数に前々月10月末の株価を掛け算出し、これでランキングする。
その上で

  1. ①ランキング75位以内は指数に採用される。
  2. ②現時点での採用企業で、ランキング100位以内の企業は採用される。
  3. ③上記基準で採用企業が100社未満の場合、前回の入れ替え時100位以内であった現指数採用会社で、今回のランキング101位から125位のものをランキング順に採用する。
  4. ④それでも100社に満たない場合、現採用会社以外でランキング順に100社となるまで追加する。
    注:1社で複数種類の株式を発行するケースがあるため、銘柄数は100を超えることがあります。詳細はNasdaq社発表のメソドロジーをご参照ください。※1

既存採用企業に対してはランキング100位から落ちたとしても継続して指数に採用するといった継続性を重視する姿勢が見える。しかし、それでも125位までであり、明確なカット基準が開示されているのが特徴である。

指数ターンオーバーをコントロールしつつ、評価を得た企業と時価総額を減らした企業の入れ替え戦をおこなう、これがNASDAQ100指数を魅力ある指数として維持させているのだ。
およそ20年前の大阪証券取引所の調査レポートに、当時のNASDAQ100指数メソドロジーについての記載があった。それによると、上場後2年経過しないと指数に採用候補にされないというルールがあったという。今は3ヶ月に短縮化されている。
成長する企業を見逃さない、2年も待っていたら乗り遅れるかもしれない。成長株をタイムリーに指数の取り込むといった考え方がそこに盛り込まれた。

※1 https://indexes.nasdaq.com/docs/Methodology_NDX.pdf

時価総額基準は、客観的尺度

株式指数の設計に携わる時、どの基準で企業を選択しどの基準でウェーティング(重みづけ)するかが重要なポイントとなる。
NASDAQ100指数は時価総額という尺度をつかっている。この尺度は企業の発行済み株式数に株価を掛けたもので、その会社を市場で全部買ったらいくらか、という単純な尺度だ。
しかしながら、株価は(投資家が)企業をどのように評価するか、ということであるから当然移ろいがある。2021年の銘柄入れ替えで採用されて銘柄には、赤字企業もある。しかし、投資家の評価があれば、自然と株価が上昇し、時価総額が増え、結果指数に採用となるわけだ。
評価を受けた企業を客観的に指数に取り込む、時価総額基準はこういったアクションをとれる尺度と言えよう。

冷徹な銘柄排除ルール

同指数には、採用基準とならび退出ルール(除外基準)もある。
時価総額比率が2ヶ月連続して0.1%を下回った場合、指数から除外することがあるという怖い一文がある。期中であれ、ダメなやつはドンドン除外していく、徹底的に時価総額レースを強いているのだ。
選び抜かれた会社で構成されたというイメージが印象に残るであろう。
また、これは新興の企業をいち早く取り組むという意味でもある。

2020年7月20日、ある銘柄がセクター区分の見直しで削除され、替わって採用されたのがモデルナである。あのコロナワクチンを開発した会社だ。年末の定期入れ替えを待たずの採用であった。

新規採用銘柄の横顔

2021年12月の定期入れ替えで採用された6社の概要をまとめた。
今更驚くこともないが、6社中4社がサンフランシスコとかシリコンバレーに本社を構えている。また、赤字企業というもの多い。
新興企業で期待が大きい企業は、赤字だって、売り上げが立っていなくたって評価される。その結果、時価総額が採用レベルに上がってくれば指数採用となる。このコンセプトが如実に表れた結果と言えよう。

2020年12月、S&Pダウジョーンズ社はS&P500指数にテスラを採用した。同指数としては、史上最大規模の採用銘柄であった。これに遡ること7年半、NASDAQ100指数はすでに同社株を採用していた。この間、同社株の値上がりは約2,500%に及んだのである。

NASDAQ100指数のファンダメンタルズ

NASDAQ社の資料によると 2003年から2020年末までの間、NASDAQ100のファンダメンタルズは以下の通り変化した。数値は年率換算である。

  • 利益額 +20%
  • 売上高 +12%
  • 配当額 +25%

NASDAQ100指数のパフォーマンスを支えているのが指数を構成する企業の業績向上であることがうかがえる。

投資可能性は指数利便性

1985年1月31日がこの指数の算出基準日である。その時の指数値を125ポイントとして、以後継続して計算公表している。
機関投資家やインデックスファンドなどに代表される投資商品からの投資可能性を考え、一定の流動性を保ちつつ、ターンオーバーがコントロールされた利便性の高い指数と評価されている※2。1999年3月、同指数にトラックする米国ETFとしてパワーシェアーズからティッカーQQQが設定された。歴史ある成功した投資商品の一つである。
以降、米国内で、あるいは国外でも同指数のインデックスファンドが設定運用されている。インデックスファンドのみならず、この指数を対象とした先物取引、オプション取引などグローバルで490種以上の金融プロダクトが存在する(NASDAQ社資料より)。上場投信ETFだけでも2,000億ドル以上の残高がある※3

NASDAQ市場には、このNASDAQ100指数と並び、NASDAQコンポジットという代表的指数がある。こちらはNASDAQ市場全銘柄の値動きを示すもので1971年2月5日から算出されておりNASDAQ100指数よりも長い歴史がある。しかし、銘柄数が多過ぎる(現在3,000銘柄以上)し、流動性の乏しい銘柄があったり、そもそも投資魅力に欠けると思えたりする銘柄も少なくない、その結果可用性が劣り、金融商品開発が進みづらかった。NASDAQ100は、その点が改良され、投資資金を呼び込む投資商品の開発を容易にしたのである。

※2 このほかにも、少数銘柄によって指数比率が過度に集中しないようにするリバランス基準もある。
※3 Nasdaq-100-Tracking-Innovation-Large-Cap-Growth.pdf

NASDAQ市場の魅力

NASDAQ市場は、ベンチャーが資金調達をする市場として有名である。スタートアップした新興企業が集うところ、そして投資家からみたら将来大きく成長する若芽を、若株を見つけるチャンスに富む市場だ。そのなかからビジネスに成功したGAFAに代表される巨大企業が生まれ育った。
今、彼らを追うユニコーンが続々とこの市場を目指している。次なる変革が生まれるとき、その大役はNASDAQが果たすに違いない。

NASDAQ100指数採用銘柄(2021/12定期入れ替え)