【鈴⽊教授による解説シリーズ11】AI運用図解シリーズ①

  • クウォンツ・インデックスの視点
  • 2019年07月
投資理論とコンピュータの歴史
ポイント
  • 投資理論は科学のパラダイムシフトと共に発展しています。
  • コンピュータの普及により、売買の判断や発注の自動化が進んでいます。
  • 「シストレ・執⾏アルゴ・HFT・ロボアド・AI運⽤」の違いを整理します。

今回より投資理論の歴史や分類について連載でお伝えします。その背景として、コンピュータによって売買判断や売買取引を自動化する技術が多様化し、弊社が開発するAI運⽤と区別が付きにくくなっていることがあげられます。具体的には、ロボアドバイザーや⾼頻度取引(通称HFT) などと異なる技術であり、各技術の違いを一般向けに紹介した書籍や文献はほとんど無いようです。

そこで本連載では、弊社のAI運⽤に特化せず、より広範な視野から多様化した技術を整理します。まず初回である本稿では、各技術の概要をこれまでの科学のパラダイムに沿って一望します。そして次回より、それぞれの詳細について図解します。

科学のパラダイムシフトにおける投資理論

人工知能(AI) のようにコンピュータを駆使してビッグデータに隠れた法則性を探す方法は「第4の科学」と呼ばれています。AI運⽤はこの着想に基づき、伝統的データ(株価や財務情報など)に加えて、非伝統的データ(ニュース記事やSNSなど)のビッグデータも投資判断に活⽤します。

さて、投資理論における「第1の科学」は、1700年代の日本(江⼾時代)における罫線分析が起源だと言われています。特に酒田宗久氏が代表的であり、米相場を観察することで経験的に価格変動パターンを⾒出し、酒田罫線法として理論化しました。その後1800年代の米国において、チャールズ・ダウ氏のダウ理論へ昇華し、現在のテクニカル分析の基礎になりました。

科学のパラダイムシフト

  • 【第1の科学】実験科学
    • 自然界を観察することでデータを集め、経験的に法則を導く。
  • 【第2の科学】理論科学
    • 数学的な基礎法則を仮定した上で、より⾼度な法則を演繹的に導く。
  • 【第3の科学】計算科学(シミュレーション)
    • 数式で解けない複雑な問題に対して、コンピュータによって答えを求める。
  • 【第4の科学】データ科学(機械学習)
    • 大量の観測データからコンピュータによって法則性を探す。
科学のパラダイムシフト表

次の「第2の科学」は、ハリー・マーコヴィッツ氏のポートフォリオ理論(1952年) を始めとする⾦融工学や数理ファイナンスです。統計学に基づいて演繹的にポートフォリオの投資配分を最適化します。現在のロボアドバイザーはこのポートフォリオ理論を中⼼的なロジックとして活⽤しています。したがってロボアドバイザーは現代的なAI技術(第4の科学) によるものではありませんが、スマートフォンによる操作のみで各ユーザー独自のポートフォリオをオーダーメイドできる⼿軽さが対⾯販売を凌駕するイノベーションになっています。

一方、同時期におけるコンピュータの歴史を紐解くと、1949年に世界初のデジタルコンピュータ(ENIAC) が誕生。当初は0.01メガFLOPS (1秒間に1万回) の演算速度でしたが、真空管から集積回路に変わった1970年代には1メガFLOPS (1秒間に100万回) の演算速度になり、ムーアの法則(指数関数的に演算速度が向上) が発動します。そして1980年代にはPC-9800シリーズ(NEC製) などのパーソナルコンピュータが普及し、第3の科学へパラダイムシフトします。

この「第3の科学」では、シミュレーションによって投資理論の妥当性を検証できるようになったため、システムトレード(一定の売買ルールに従って売買判断する方法) が普及しました。ただし発注は人⼿で⾏うため、後述するアルゴリズム取引とは異なります。さらに実際の株価データを解析することで⼩型株効果やバリュー株効果などのファクターが発⾒され、CAPMでは説明できないアノマリーを補強するためにファーマ・フレンチの3ファクターモデル(1993年) が考案されました。これにより株価の時系列情報のみならず、クロスセクション情報も有⽤であることが広く知られ、現在のビッグデータ(非伝統的データ) を⽤いる動機にもなっています。そしてビッグデータを解釈するためにAIを導入したシステムトレードが現在のAI運⽤(第4の科学) であるとみなすこともできます。なお、特にファクターに着目したシステムトレードをクオンツ運⽤と呼び、ファクターの効果を安定化させるためにロング&ショートやマーケットニュートラル等のポートフォリオを組みます。

AI運⽤のようにビッグデータを扱う「第4の科学」は入⼒データが⾼次元に及ぶため、どのようなロジックで結果が出⼒されたのか我々人間には解釈困難(ブラックボックス) になりやすい欠点があります。しかしこれまでの第1〜第3の科学は解釈可能なホワイトボックスを重視したため人間が解きやすい問題に偏り、本来解くべき問題が⾒過ごされてきた可能性が指摘されています。そこで第4の科学は、解ける問題から解くべき問題へのパラダイムシフトとして期待されています。

解ける問題から解くべき問題へ

コンピュータを用いた様々な投資アルゴリズム

第3の科学で述べたように、1980年代よりコンピュータが普及したため、売買の判断は自動化されるようになりました。この売買の判断は「ファンドマネージャー」の仕事ですが、売買の発注は「トレーダー」が⾏います。某外資系証券会社では600人のトレーダーが2人に減ったことが話題になりましたが、売買の発注は⽐較的アルゴリズム化できるルーティン処理です。特にAIのように複雑なロジックは必要ありません。それゆえ1990年代のように古くからコンピュータによる売買の発注が⾏われています。このように発注をコンピュータで自動化したものを一般に「アルゴリズム取引」と呼び、売買判断の自動化と区別します。

売買の判断と売買の発注における役割の違い

売買の発注を自動化できるならば、常時マーケットを監視し続け、確実に利益を得られる裁定機会(アービトラージ) の出現に合わせて発注を入れることも可能です。しかし他者より早く発注しないと裁定機会を奪われてしまうため、スピード競争で1位になる必要があります。勝者総取りです。

そこで2000年代より登場したのが⾼頻度売買(HFT) です。AI技術ではなくICT (情報通信技術) により、データの送受信やハードウェア上の計算に伴う遅延を可能な限り短縮します。したがってAIのような複雑なアルゴリズムは計算を遅くする原因となるため使⽤しません。つまりHFTはソフトウェアよりもハードウェアを重視した技術であると言えます。他にもマーケットメイク等のアルゴリズムがありますが、やはりロジックは単純であるためハードウェア技術によってスピードを担保する必要があります。

以上のように、アルゴリズム取引のロジックはシンプルであるため、人間のような⾼度な知能は必要ありません。黙々とロジックに従って休まずタスクをこなしてくれるコンピュータ(人工無脳) で充分です。ただし速度や安定性においては人間より遥かに優れています。また市場を先読みするような難しいタスクではないため、システムトレード(AI運⽤を含む) よりも成果が得やすい領域です。したがってマスコミ等で華やかに紹介される成功事例の多くはこのアルゴリズム取引です。しかし分かりやすさやインパクトを優先するためか、AIによる成果のように報道される場合があるので注意が必要です。その⾒分けを容易にするため、次回よりそれぞれの投資アルゴリズムについて詳しく図解します。

コンピュータを用いた様々な投資アルゴリズム

鈴木教授 プロフィール

鈴木智也(すずきともや)
茨城大学大学院理工学研究科機械システム工学領域教授.理学博⼠.IFTA国際検定テクニカルアナリスト.平成17年東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻博⼠課程修了,同年東京電機大学工学部電⼦工学科助⼿,平成18年より同志社大学工学部情報システムデザイン学科専任講師,平成21年より茨城大学工学部知能システム工学科准教授を経て,平成28年より同大学教授.さらに平成29年より大和証券投資信託委託(株)クウォンツ運⽤部特任主席研究員,平成30年よりCollabWiz(株)代表取締役を兼務.研究分野は,時系列解析,テキスト解析,機械学習,人工知能,⾦融工学など実践的なデータサイエンスに従事.電⼦情報通信学会,人工知能学会,日本テクニカルアナリスト協会,日本証券アナリスト協会各会員.

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