豪ドル見通し

  • マーケットレター
  • 2020年03月
新型コロナウイルス問題の先を見据えて
ポイント
  • 大規模な森林火災や新型コロナウイルス問題が豪ドルを下押し
  • 森林火災はほぼ鎮火し新型コロナウイルス問題もいずれ終息へ
  • 景気支援の主役は金融政策から財政政策へ移行
  • 新型コロナウイルス問題の終息と景気回復期待で豪ドル買い戻しに

大規模な森林火災や新型コロナウイルス問題が豪ドルを下押し

年初から豪ドルの下落が目立つ

2020年に入り、主要先進国通貨の中でも豪ドルの下落が目立っています。【図表1】
背景として、①イラン情勢の緊迫化でリスク回避姿勢が高まったことや豪州で昨年から続いていた森林火災が深刻化し経済活動への懸念が高まったこと、②中国における新型コロナウイルスの感染拡大によってヒト・モノの移動に制限がかけられたこと、さらに③新型コロナウイルスが中国以外にも拡散し世界的に株価が急落するなどリスク回避姿勢が極端に高まったことが挙げられます。【図表2】

図表1:各通貨の年初来騰落率(対円)(2019年12月31日~2020年3月4日)
図表2:豪ドルの対円・対米ドルレート(2019年12月31日~2020年3月4日)

豪ドルの反発をうかがう展開に

ただし、①はすでに鎮静化しており、②は終息の見通しが立ち始めています。③についても各国の対応によって終息が見通せるようになるのは時間の問題だと考えており、豪ドルは年初から売られすぎた反動をうかがうタイミングが近づいていると考えています。また、今年後半から来年にかけての景気回復期待が高まることで、年内にも豪ドル円は80円をめざす展開を想定しています。

森林火災はほぼ鎮火し新型コロナウイルス問題もいずれ終息へ

大規模な森林火災はほぼ鎮火

昨年秋から続いていた森林火災は年明けにかけて勢いを増し、「史上最悪の森林火災」と言われるようになりました。その後、集中豪雨によって森林火災はほぼ鎮火しましたが、今度は洪水被害が深刻になりました。しかし、終息が見通せない森林火災は対策が難しいですが、洪水は「これ以上悪くならない」ことが分かっているため、不確実性は後退したと言えます。今後、経済統計等に被害の大きさが表れてくるでしょうが、金融市場が改めて材料視する可能性は低いと考えています。

新型コロナウイルス問題もいずれ終息へ

豪州は中国経済との結びつきが強く、新型コロナウイルス問題によって、特に観光業や教育関連セクターは短期的に大きなダメージを受けそうです。【図表3】しかし、中国からの渡航者に対する入国制限によって豪州国内での感染拡大は抑制できているほか、中国の感染者数が明確に減少していることは好材料です。【図表4】また、足元の金融市場は新型コロナウイルスがもたらす経済への影響を計り切れないあまり、過度に悲観へ傾いているように思われます。ただし、十分な政策を打てばウイルスの感染拡大を抑制できることは中国で実証されており、短期的には経済の痛みを伴うものの、いずれは世界的にウイルスの終息が見通せる状況になると考えられます。

図表3:外国人観光客数(2000年1月~2019年12月)
図表4:中国本土の新型コロナウイルス感染者数(2020年1月25日~2020年3月4日)

豪ドルは過度な悲観を織り込んだ水準

豪ドル円はその予想変動率と負の相関があります。【図表5】つまり、金融市場の不確実性が高まると、豪ドルが売られ円が買われやすくなるということです。直近もそのような動きになっており、現在の水準は豪ドルの本来の実力以上に売られている可能性が高いと考えられます。今後、新型コロナウイルス問題の終息が見通せるようになり、金融市場の不確実性が後退すれば、豪ドル円は上昇しやすくなるでしょう。

図表5:豪ドル円の予想変動率と豪ドル円レート(2015年1月初~2020年3月4日)

景気支援の主役は金融政策から財政政策へ移行(1)

RBAの政策目標の実現は遠い

RBA(豪州準備銀行)は雇用の最大化と2~3%の物価の安定を政策目標としていますが、これらを達成するのはかなり先になりそうです。
雇用者数は拡大傾向が続いていますが、労働力人口の増加によって相殺され、失業率は5%台前半で一進一退の動きとなっています。【図表6】また、短期的には森林火災や新型コロナウイルス問題が採用活動に与える影響も懸念されます。RBAは自然失業率を4%台半ばと推計しているため、完全雇用の実現には相当の時間を要することが想定され、賃金上昇率も当面は緩慢な状態が続くと思われます。そのため、物価上昇圧力は弱く、インフレ率もRBAの目標を下回る傾向が続きそうです。【図表7】

図表6:平均賃金と失業率(平均賃金:2006年1-3月期~2019年10-12月期)
図表7:消費者物価指数(実績:2006年1-3月期~2019年10-12月期)(見通し:2020年4-6月期~2022年4-6月期)

金融政策の限界が近づく

RBAは昨年3回の利下げを実施しました。【図表8】しかし、昨年10月以降、ロウRBA総裁の発するコメントからは追加利下げに消極的な姿勢がうかがえます。まず、10月末に行われた講演では、雇用の最大化や物価の安定はあくまでも数値的な目標であって、RBAの真の目的は国民の豊かさであると述べました。利下げによって市場金利が極端に下がってしまっては、債券に投資している人々のインカム収入を減少させることになり、消費者のセンチメントを悪化させる恐れがあるなど、利下げによる副作用について言及されることが多くなりました。今年2月の議会証言では、2021年末までにインフレ率を目標の中心まで引き上げるためには政策金利を3~4%引き下げる必要があると非現実的な手段を述べ、金融政策の限界とともに財政支出の拡大を訴えました。
RBAは新型コロナウイルスの感染拡大に対する措置として3月3日に政策金利を0.50%に引き下げることを発表しましたが、金融政策の限界が一段と近づいていることは確かです。

図表8:政策金利と長期金利(2010年1月初~2020年3月4日)

景気支援の主役は金融政策から財政政策へ移行(2)

金利先物市場は追加利下げを織り込み済み

金利先物市場は次回4月会合での追加利下げを100%近く織り込んだ水準です。【図表9】昨年11月にロウRBA総裁は実務上0.25%が政策金利の下限だと述べており、6月限以降の金利先物は利下げを織り込みすぎている(非伝統的な金融政策の導入を一部織り込んでいる)と言えそうです。
また、経常収支が黒字化し、財政拡大余地のある豪州が通貨安誘導ともとられかねない過度な金融緩和を行えば、国際社会から非難されるかもしれません。【図表10】RBAは量的緩和など非伝統的な金融政策に移行する前に、財政政策の動向を見極めることになるでしょう。

図表9:金利先物が織り込む将来の政策金利(2020年4月限~2020年12月限)
図表10:経常収支(2006年1-3月期~2019年10-12月期)

財政支出の拡大余地は残されている

財政収支は2019年度に黒字化する見通しとなっているなど、財政支出を拡大する余地は他国に比べて多く残されています。【図表11】
昨年11月に格付会社のS&Pは、豪州が財政刺激策を強化した場合にはAAAの格付けに「下押し圧力」が強まるとアナウンスしていました。しかし、森林火災や新型コロナウイルス問題が浮上して以降は、財政支出を拡大しても格下げリスクにはさらされないとの見解を示しており、政府としても財政刺激策を打ちやすい状況になっていると考えらます。

図表11:財政収支(対名目GDP比)(実績:2006年度~2018年度)(計画:2019年度~2022年度)

追加の財政刺激策に注目

5月に発表される2020年度予算案では、所得税減税の前倒しなどを盛り込み、財政支出の拡大に動くことが考えられます。また、森林火災からの復興を支援するために向こう2年間で20億豪ドルの予算を確保すると表明したように、新型コロナウイルス問題による影響を特に受けている教育・観光業に対しても、5月の予算案を待たずして臨時の対応策が出てくる可能性も考えられます。景気支援の主役は金融政策から財政政策へ移ったといえるでしょう。

新型コロナウイルス問題の終息と景気回復期待で豪ドル買い戻しに(1)

昨年末には景気回復の兆しが見えていた

2019年10-12月期の実質GDPが前年同期比で+2.2%まで回復するなど、昨年末までの経済指標からは景気回復の兆しがうかがえていました。【図表12】森林火災や新型コロナウイルス問題によって2020年1-3月期は一時的に前期比でマイナス成長に陥る可能性もありますが、景気回復シナリオが頓挫したわけではなく、あくまでも景気回復の「先送り」だと考えています。

図表12:実質GDP(2006年1-3月期~2019年10-12月期)

住宅市場の回復が鮮明に

特に、2019年の成長率を約0.4%ポイント押下げた住宅投資は、2020年後半から2021年にかけてはプラス要因として働くと見込んでいます。【図表13】住宅投資に半年程度先行する民間の住宅建設許可件数は前年同月比でゼロ%前後まで持ち直しています。同指標は単月のブレが大きいのが難点ですが、住宅価格の上昇が続いている通り、基調としては住宅市場が回復期に入っていると考えています。【図表14】また、住宅価格の上昇が消費者心理の改善にもつながり、景気回復を後押しすることが期待されます。

図表13:住宅建設許可件数と住宅投資(住宅建設許可件数:2005年7月~2020年1月)(住宅投資:2006年1-3月期~2019年10-12月期)
図表14:コアロジック住宅価格指数(2006年1月~2020年2月)

再び景気回復期待が高まるように

新型コロナウイルス問題が終息すれば、改めて豪州の景気回復に視線が移ると考えられます。すでに非常に低い水準まで金利が低下していることに鑑みれば、再び景気回復期待が高まるにつれてRBAに対する過度な金融緩和期待は後退し、金利上昇・豪ドル高につながる可能性が高まります。
また、世界的な金融緩和環境に加え、各国が協調して財政刺激策を強化しようとしていることは、新型コロナウイルス問題が終息した後の豪州経済に特にプラスに働くと思われます。世界的な景気回復期待が鮮明になってくれば、鉄鉱石など資源価格の回復も手伝って資源国である豪州の景気回復を後押しすると考えられるからです。

新型コロナウイルス問題の終息と景気回復期待で豪ドル買い戻しに(2)

豪ドルの買い戻し余地は大きい

投機筋(非商業部門)による豪ドルの先物ポジションは売り越しに傾いています。【図表15】昨年終盤にやや買い戻される場面もみられましたが、前述の問題によって再び売りポジションが拡大している状況です。金融市場が新型コロナウイルス問題を過度に悲観視していると思われる現状に鑑みれば、豪ドル売りに傾き過ぎであり、豪ドルの買い戻し余地は大きいと考えています。

図表15:非商業部門のポジションと為替レート(2010年1月第1週~2020年2月第4週)

豪ドル円は徐々に水準を切り上げる展開に

短期的には、世界的なリスクセンチメントに左右される展開が続くと思われますが、新型コロナウイルス問題に対する過度な懸念が後退することで豪ドル円は徐々に水準を切り上げていくと見込んでいます。また、豪州経済の回復シナリオが浸透してくれば、年内にも80円をめざす展開になると想定しています。【図表16】

図表16:豪ドルの対円レート(2010年1月初~2020年3月4日)

目先は新型ウイルス問題の動向を注視

なお、当社では新型コロナウイルス問題が3月中にも終息が見通せる状態になり、金融市場の混乱が落ち着くことをメインシナリオとしています。ただし、この見通しが後ずれするリスクも相当に高いことを承知しています。もし、新型コロナウイルスの感染拡大の勢いが止まらず、また豪州国内でも感染が広がるような事態になれば、RBAによる量的緩和の導入も視野に入り、豪ドルに対して一層の下押し圧力が加わる可能性が高まります。そのため、引き続き新型コロナウイルスの世界的な感染状況やそれに対する金融市場の反応を注視する必要があると考えています。

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