豪ドル~2020年の見通し~

  • マーケットレター
  • 2019年12月
国内外の環境は好転し、豪ドルの上昇期待が高まる展開へ
ポイント
  • 利下げや規制緩和によって上昇に転じた住宅価格を起点に、景気回復が見込まれる。
  • 利下げ余地が限られる中、豪州準備銀行はこれまでの利下げ効果を見極める局面に。
  • 財政出動のさらなる拡大余地もあり、過度な利下げ期待は後退へ。
  • 経常収支の改善や外部環境の好転も豪ドルの追い風に。

2020年は豪ドル高の公算が大きい

2018年から本格化した米中貿易摩擦の影響、世界経済ならびに豪州経済の減速、豪州準備銀行による利下げなどを背景に豪ドルは下落傾向を辿ってきました。しかし、この豪ドル安トレンドも一巡し、2020年は豪ドルにとって追い風となる環境が実現する可能性が高いと考えています。
背景として、これまでの金融緩和や経済政策の効果が表れ始めていること、市場参加者の過度な利下げ期待が後退する可能性が高いと考えられること、米中通商協議の第1段階の合意によって豪ドルとの連動性が高い中国人民元の下落リスクが小さくなっていることなどがあります。
詳細につきましては、次項以降で詳しくご説明させていただきますが、当社では2020年に0.72米ドル/豪ドル、80円/豪ドルをめざす可能性が高いと考えています。

図表1:豪ドルの対円・対米ドルレート(2010年1月初~2019年12月24日)
図表2:政策金利と10年国債利回り(2010年1月初~2019年12月24日)

成長率は2%台への回復を見込む

2019年の実質GDP(国内総生産)成長率は2009年以来の1%台へ減速した模様です。2019年の成長率を押下げたのは主に住宅投資の失速と個人消費の減速ですが、下記の通りこれらは今後回復に向かう公算が大きく、当社は2020年の成長率が2%台半ばまで回復すると見込んでいます。

住宅価格が上昇に転じる

2019年7-9月期の住宅価格指数は前期比+2.4%と7四半期ぶりに上昇しました。【図表3】住宅ローンにかかる規制の緩和や豪州準備銀行による利下げの効果が表れてきたといえるでしょう。同指標はトレンドが長期間継続しやすい特徴があるため、来年にかけては住宅価格が上昇基調で推移することが期待されます。また、月次で公表されている民間の調査では、10月、11月と住宅価格の前月比上昇率が一段と加速したことが確認されています。

図表3 住宅価格指数(2006年1-3月期~2019年7-9月期)

住宅価格上昇の波及効果に注目

住宅価格と住宅建設許可件数は連動性が高いという特徴があります。【図表4】このまま住宅価格が上昇トレンドに乗るとの前提に立てば、2020年は住宅投資の持ち直しが期待されます。
住宅価格の上昇は資産効果を通じて消費者心理の改善につながることも期待できます。【図表5】足元のGDP統計からは、家計の貯蓄率が上昇しているにもかかわらず、それが消費につながっていないということが確認できます。今後、消費者心理が改善に向かえば、個人消費も回復し、GDP成長率を押し上げることにつながると考えています。

図表4 住宅価格指数と住宅建設許可件数(住宅価格指数:2006年1-3月期~2019年7-9月期)(住宅建設許可件数:2006年1月~2019年10月)
図表5 住宅価格指数(前期比)と消費者信頼感指数(住宅価格指数:2006年1-3月期~2019年7-9月期)(消費者信頼感指数:2006年1月~2019年12月)

失業率のトレンドは改善へ

2019年、豪州準備銀行が利下げに踏み切った理由として特に強調したのは、失業率の悪化でした。【図表6】豪州準備銀行は自然失業率を4%台半ばと推計しており、5%を超えて上昇していた失業率に懸念を示していました。一方で、失業率が悪化した主な要因は労働参加率の上昇であり、雇用者数が減少していた訳ではありません。さらに直近2019年11月の失業率は5.2%に改善し、同指標のトレンドも下向きに転じつつあります。

図表6 失業率(2006年1月~2019年11月)

インフレ率の目標回帰は遠いが

インフレ率は当面、目標レンジを下回って推移する見込みです。【図表7】ただし、豪州準備銀行は短期的なインフレ目標の回帰に固執している様子はなく、また、低金利による副作用について言及する機会も増えています。中期的なインフレ目標の回帰に向けたシナリオが崩れない限り、追加利下げには慎重になると思われます。

図表7 CPI(消費者物価指数)(2006年1-3月期~2021年10-12月期)

財政収支は金融危機以降初の黒字に

利下げの限界が近づく中、2019年7月には所得税減税法が成立するなど政府も政策を強化しています。それでも、2019年度以降の財政収支が黒字で推移するとの計画は変わっておらず、さらなる財政出動の余地は残っています。【図表8】

図表8 財政収支(対名目GDP比)(2006年度~2022年度)

過度な利下げ織り込みの修正へ

多くの市場参加者は2020年前半に追加利下げが実施されると見込んでいるようですが、上述の理由から過度な利下げ織り込みが修正される可能性は十分あると考えています。金融市場の利下げ織り込みが完全にはく落することはないと思われますが、過度な利下げ織り込みが後退することは金利・通貨に対して上昇圧力を加えるでしょう。

経常収支は44年ぶりの黒字に

資源輸出の拡大やこれまでの豪ドル安の進行もあり、豪州は長年続いた経常赤字体質から脱却しました。【図表9】少なくとも実需面から見て、豪ドル安が進行するリスクは低減しているといえるでしょう。

図表9 経常収支(2006年1-3月期~2019年7-9月期)

米中合意も豪ドルに追い風

米中通商協議が第1段階の合意に至りましたが、そこには為替についての条項も含まれているため、両者が合意事項を順守する限り、中国人民元は底堅く推移することが期待されます。それは、中国人民元と連動性の高い豪ドルにとっても追い風になると考えられます。【図表10】

図表10 豪ドルと中国人民元の対米ドルレート(2016年1月初~2019年12月24日)

豪ドル上昇の環境が整いつつある

以上、これまで述べた通り、豪州経済は回復に向かう蓋然性が高く、財政の拡張余地があることにも鑑みれば、市場の追加利下げ期待は行き過ぎだと考えています。外部環境も改善に向かいつつある中、豪ドルが一方的に下落する局面は終焉を迎えた可能性が高いと思われます。豪ドルを取り巻く環境が改善しているとの認識が浸透すれば、2020年は豪ドルが上昇しやすくなるでしょう。
なお、米中関係が再び悪化する、住宅価格の上昇が他の経済指標に波及しない、失業率が上昇トレンドに戻るなど前提条件が崩れれば上述のメインシナリオ通りにならない可能性が高まりますので、これらの動向を引き続き注視したいと考えています。

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