米中貿易摩擦、中国政府の反応

  • マーケットレター
  • 2018年03月
~制裁措置に対し中国政府は自制を保つ~

中国政府、米国の貿易制裁措置の提案に反発

2018年3月22日(現地、以下同様)、米国トランプ大統領は、米国通商法301条に基づき、主に中国による知的財産権侵害に対する制裁措置を提案した大統領覚書に署名しました。これを受け、中国商務省は23日早朝、米国が先立って導入した鉄鋼とアルミに対する関税引き上げに対して、世界貿易機関(WTO)の「保障措置協定」に基づき、「譲許停止措置」リストを制定し、一部米国製品に対して関税の引き上げを検討し、中国国内で3月31日までに産業界のヒアリングを行うと発表しました。

関税引き上げ可能な商品リストは、下記のような7種類の計128品目で約30億米ドルに相当し、15%~25%の追加関税を課す可能性を示しました。

第一グループリスト:120の課税項目で、米国の輸出の9.77億米ドルに相当し、果物(新鮮なフルーツ、ドライフルーツ、ナッツ)、ワイン、シームレス鋼管、等に対して15%を上乗せ課税

第二グループリスト:米国の輸出の19.92億米ドルに相当し、豚肉および豚肉製品、アルミスクラップに対して、25%を上乗せ課税

また、米政府の米国通商法301条に基づく調査や関税導入方針に対しては、中国商務部高官が米国の制裁措置に対する「準備は整っている」と述べており、また、利益が損なわれれば断固とした措置を取るとの内容を政府ウェブページに掲載しています。政府機関紙の人民日報は、米国の「いじめ的」経済貿易政策は受け入れられず通用もしないなどの内容を掲載するなど、反発の意思を伝えました。

中国政府、大規模な報復措置は自制

ただし、中国政府の発表内容をみると、大規模な報復措置は自制しており、米中貿易戦争が直ちに勃発する最悪シナリオは回避されています。

23日に発表した「譲許停止措置」リストの対象商品の規模は、米国が検討する課税品目対象の500億米ドルを遙かに下回る30億米ドルにとどまっています。特に、報復措置による関税引き上げ品目として有力視された大豆などが「譲許停止措置」リストに入っていないことは、中国が大規模な報復措置に踏み出さず、自制していることを示唆しました。大豆、コットンなどの農産品は、米国からの輸入規模が大きく、トランプ大統領支持層が主に生産しているため、いったん中国が関税を引き上げると、米国の輸出に打撃をもたらすだけではなく、トランプ大統領の支持率に悪影響が及ぶ可能性も指摘されています。

中国政府の23日の動きは、米国政府への報復措置は可能ではあるものの、大規模で影響の大きい報復を自制しており、交渉を通じて貿易不均衡を解決し、貿易戦争を望まないとのシグナル発信となったと考えられます。

米中間の貿易交渉が水面下で開始され、対話姿勢を確認

25日の米国国内メディアは、ムニューシン米国財務長官が中国政府とすでに交渉を開始し、「生産的な会話を行っており、慎重ながらも合意に達することを期待する。」とコメントを発したことを報じています。高まった貿易摩擦の懸念にいったん歯止めがかかる可能性があると考えられます。また、ムニューシン米財務長官が近々、北京訪問を検討しているとも報じられており、米中両政府がこれから本格的に交渉段階に入り、対話を通してお互いに妥協点を探り出していくことも期待されます。

米中両国の貿易摩擦の根源は、約1000億米ドルに上る中国の対米国貿易黒字のほかに、米国政府は中国市場参入時の技術の共有を問題視しています。貿易黒字の削減は、中国の輸入拡大を通して実現する可能性が高い一方、知的財産権で中国が米国に譲歩すると、中国の「中国製造2025」の産業アップグレード政策に打撃をもたらすリスクがあるため、両国の政策のギャップは簡単には埋まらない可能性があります。

ただし、先週後半の米中両政府の一連の動きは、両国とも直ちに制裁措置を発動したわけではなく、交渉する期間を残しているともいえることで、相手の譲歩を引き出す交渉術の一環とみることができるかもしれません。両国が直ちに解決策にたどり着く可能性は低く、今後も交渉段階で貿易摩擦のノイズが再び高まる可能性もありますが、米中両政府が対話の姿勢を封じ込めない限り、時間の経過とともにウィンウィン関係をもたらす妥協点にたどり着き、懸念が徐々に後退していく可能性が高いと考えられます。

以上

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