中国経済:11月製造業PMI、および当面の景気見通し

  • マーケットレター
  • 2017年12月
~企業景況感は引き続き良好で、景気減速は軽微なものにとどまる~

11月の中国国家統計局製造業PMIでは需要と供給、両サイドの堅調な推移を確認

11月の中国国家統計局製造業PMI(購買担当者景気指数)は、市場予想に反して10月の51.6から51.8へ上昇しました(図表1)。前回10月のPMIは、低下幅が若干大きかったことで中国経済を懸念視する声もありましたが、9月に約5年半ぶりの高水準をつけたことの反動によるものと考えられます。今回11月PMIが上昇に転じたことは、この見方を裏付けるものであり、市場に安心感をもたらす内容と考えます。

調査項目の詳細を見ても、良好な内容となりました。「新規受注」が2013年以降で2番目の高水準となったことや、「生産」項目も高水準を維持したことで、需要と供給、両サイドの堅調さが示されました(図表1)。また、原材料在庫から完成品在庫を引いたものを、「企業の在庫積み増し意欲」と見なすことができますが、この値は高水準にあります(図表2)。つまり、企業の生産意欲は依然として高いとみられます。環境保護による生産抑制の影響は限定的であり、生産活動のモメンタムは維持されると期待できます。

企業を取り巻く環境に関して、中国国内債券市場の金利上昇が企業の資金調達コストの増加につながるとの懸念があります。しかし、各種の資金調達コストを比較すると、社債の利回りは上昇しているものの、銀行貸出金利がおおむね安定しているため(図表3)、影響は限定的とみられます。銀行貸出金利は中国人民銀行が政策金利として直接にコントロールしており、また中国では間接金融の割合が約7割と高いことから、社債利回りの上昇が企業活動や実体経済にもたらす悪影響は、さほど大きくないと考えられます。

生産者物価指数が高水準にあり、企業のマージンが高止まりしているほか、総需要も引き続き底堅いと見込まれることから、今後も企業収益は高水準を維持し、企業の景況感が急速に冷え込むリスクは低いと考えられます。

足元の中国経済は、幾分減速傾向がみられるが、底堅さを維持

直近発表された中国の主要経済指標では、今回の景気回復サイクルのけん引役であるインフラ(社会基盤)投資や不動産投資が若干鈍化しましたが、一方で安心材料も見られました。短期的な固定資産投資の動向を判断する上で参考となる「新規着工プロジェクト(金額ベース)」が反発したこと(図表4)を受け、インフラ投資は一時的な減速から巡航速度へ回復すると見込まれます。不動産投資も主要都市での在庫減少を背景に底堅く推移すると予想されます。鉱工業生産は、冬季環境保護による生産抑制の影響で鈍化が見込まれますが、政府規制に起因する一過性の抑制であり、需要の減速ではないため、2018年春ごろ以降は反動増による生産加速も期待されます。

さらに、名目GDP(国内総生産)の半分を超えた第3次産業(サービス業)に関連するところでは、消費者信頼感指数が高止まりするなど、消費者センチメントが良好であることが注目されます。「独身の日( 11月11日)」のアリババの大型オンラインセールでは、取引額が前年比39%増加し、個人消費の好調さを浮き彫りにするイベントとなりました。自動車販売も買い換え需要が高まっており、消費者センチメントは上向きとなっていると考えられます。

固定資産投資や鉱工業生産などオールドエコノミーが幾分減速したとしても、貯蓄率の高さや高品質な商品に対する消費意欲の高まりを背景に、個人消費は堅調に推移し、中国経済の下支え役として一段と期待されます。投資主導から消費主導に向けて、中国経済の構造改革が着実に進んでいるといえます。

今後の注目イベントは、中央経済工作会議と全人代

中国では、2017年10月に5年一度の「中国共産党19回全国代表大会(共産党大会)」が開催され、最高指導部の人事交代が行われたほか、習近平共産党総書記が中国の長期的経済発展の3段階について大枠を発表しました。新産業育成や構造改革などの具体策に関しては、各関連政府機関が発表している段階のため、改革のスピードや政策の詳細などに関しては、今後見極めていく必要があります。その手がかりになり得る注目イベントとしては、12月開催の「中央経済工作会議」と、2018年3月開催の「全国人民代表大会(全人代)」が挙げられます。

2017年12月「中央経済工作会議」

習近平共産党総書記は、中国の長期発展目標の第1段階として「2020年までに小康社会を全面的に建設する」と発表しました。このことは、今後3年間の平均実質GDP成長率の下限を前年比6.5%増に設定したと解釈できます。ただし、経済成長率の維持と構造改革を同時に実現することは容易ではなく、そのかじ取りに関してマーケットでもさまざまな思惑が交錯しています。そのため、通常翌年の経済政策の基調を定める「中央経済工作会議」が、今年は特に注目されそうです。2018年の実質GDP成長率目標などが、共産党最高指導部の経済政策スタンスを読み解く上での手がかりとなります。

2018年3月「全国人民代表大会」

今回の共産党大会では、党の人事が完了しただけで、政府の重要閣僚が決まったわけではありません。日本の内閣に相当するものは、国務院という行政機関で、国務院所属の総理、財務省長官などの重要ポストは、通常、共産党大会の翌年3月に行われる全人代で承認される必要があります。この行政プロセスを勘案すると、国務院の人事が終わるまでは、主要経済政策は現状維持になりそうです。特に、現時点では次期人民銀行総裁および新設された金融監督を総括する「金融安定発展委員会」の委員長など、金融関連の重要な人事が明らかになっていないため、全人代の前に目新しい政策や金融政策のスタンス変更が起きる可能性は低いと考えられます。2018年の全人代では、重要閣僚の人事のほか、改革のスピードに関して明確な政府の方針が示されるのかも注目されます。

成長と構造改革のバランスを意識した経済政策が継続される見通し

10月の共産党大会以降、中国共産党指導部は、政策の軸を「経済成長率」から「経済成長の質重視」へ転換したとみられます。しかし、決して「成長率」を目標から取り下げたわけではありません。習近平党総書記の党大会での演説や、中国人民銀行周小川総裁が中銀ウェブページに掲載した論文「システミックリスクの回避という譲れない一線を守り抜く」などでは、性急な改革による景気失速を断固として回避し、一方で改革を途切れなく継続していくとのスタンスが明確に示されました。今まで実行してきた「成長」と「構造改革」のバランスを重視する政策を継続し、痛みを最小限に抑えながら構造改革を行っていく方針は変わらないとみられます。

2017年は、国内景気の循環的な回復も支えとなり、中国経済が2010年以来初めての実質GDP成長率の加速を記録すると予想されています。このような経済状況を踏まえると、共産党指導部が改革の好機と捉えて、2018年に若干改革の色彩を強める可能性があります。一方、改革を行うことで実質GDP成長率が6.5%を下回る兆しが現れれば、経済政策を景気刺激方向に傾けるなど柔軟に調整し、景気減速が軽微なものにとどまるように政策運営していくと考えられます。そのため、中国経済はおおむね安定した状況が続き、海外の経済や金融市場に悪影響を及ぼすような景気急減速のリスクは低いと予想されます。

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