ムーディーズによる中国の格下げについて

  • マーケットレター
  • 2017年05月
~当面金融市場への影響は限定的~

債務増加への懸念を受け、中国の格付けを引き下げ

格付会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(以下、ムーディーズ)は5月24日(現地、以下同様)、中国の長期発行体格付けを自国通貨建てと外貨建てともに「Aa3」から「A1」にそれぞれ1ノッチ引き下げました。

ムーディーズは格下げの理由として、経済全体の総債務残高が継続して増加し、潜在成長率が低下する中で、中国の財務健全度が徐々に損なわれるリスクを挙げています。また、現在進行中の改革は総債務残高の増加を防ぐには不十分で、その結果として、政府の偶発債務の拡大につながると指摘しました。ムーディーズは、今後5年間で中国の潜在成長率が5%程度まで低下し、政府の直接負債は対GDP(国内総生産)比で2018年に40%程度、2020年に45%程度まで上昇すると予想しています。これは、「Aa」ソブリン格付けの中央値36.7%を著しく上回り、「A」ソブリン格付けの中央値40.7%に相当するとムーディーズは判断しています。

一方で、中国のネガティブショックへの抵抗力を評価

一方で、ムーディーズは格付けの見通しを「弱含み」から「安定的」に変更しました。ムーディーズは、中国の信用力の強みとして、相対的に高いGDP成長率や、経済成長を支えるための政策余地の大きさ、閉鎖されているクロスボーダー資本勘定の3点を挙げていて、これらがネガティブショックへの中国の抵抗力を強めていると評価しました。

今後の見通し-経済成長と構造改革とのかじ取りは難しいものの、目先のリスクは限定的

ムーディーズは、今後の中国の格付け見通しに関して、総債務残高が予想より速いスピードで増加すれば、さらなる引き下げをおこなうと指摘する一方で、銀行システムの安定を維持しながら債務増加が抑制されれば、ポジティブな格付けアクションにつながるとしました。

今回の格下げが発表された24日の中国人民元市場では、目立った動きはみられていません。株式市場では、上海総合指数が一時1%程度下落したものの、その後は下落分を取り戻す動きもみられ、影響は限定的となっています。今回の格下げは、昨年3月にムーディーズが政府信用格付けの見通しを「安定的」から「弱含み」へ変更したことに次ぐものですが、タイミングに関してはややサプライズとなりました。但し、格下げされたものの、見通しが再び「安定的」になった点がマーケットへの影響を限定的にしたと考えられます。


ムーディーズが指摘した財政状況や構造問題に関しては、中長期的な動向を注視しなければならないため、短期的にムーディーズがさらに格下げする可能性は低く、今回の格下げのショックは一時的と考えられます。

中長期でみた中国経済は、様々な構造問題に直面していますが、中国政府がすでに「過剰生産能力の削減」や、「投資主導から消費主導の成長モデルへの転換」など、構造改革に着手し始めたことはポジティブに評価できます。債務残高の増加に関しても、昨年第4四半期以降、中国人民銀行が流動性の引き締めに転じるなど、取り組みが始まっています。一方で、債務残高が減少するまで性急な構造改革を行うと、景気の大幅鈍化を招きかねないので、ある程度景気状況に配慮しながら構造改革を進める必要があります。これは世界の金融市場の安定にとっても重要なことと考えられます。経済成長と構造改革とのかじ取りは難しいものの、構造改革が緩やかながら正しい方向に向かっていく中で、経済成長率の低下も小幅に止まると見込まれるため、世界の金融市場の安定を脅かすリスクにはならないと考えます。

以上

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