ファンドマネージャーの運用ノート フランス大統領選挙第一回投票に読む欧州政治の行方と投資環境

  • グローバル投資環境展望
  • 2017年04月

フランス大統領選挙の第一回投票結果を受け、「欧州買い戻し」へ

4月23日(現地、以下同じ)に実施されたフランス大統領選挙の第一回投票で、独立系中道候補のエマニュエル・マクロン氏と、極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏が、5月7日に予定される決選投票に進みました。

この投票結果を受けて、金融市場では欧州の政治リスクが後退するとの観測から、通貨ユーロと欧州株の上昇、フランス国債の金利低下とドイツ国債の金利上昇が進みました。

大衆迎合主義を軽視できない中では、無難な結果こそが金融市場にとってサプライズだった

2016年の英国国民投票(ブレクジット)や米国大統領選挙(トランプ氏当選)では事前予想がくつがえされた経験を踏まえ、今回は中道派の候補が敗退して欧州地域への投資リスクが高まるシナリオへの警戒が 強まっていました。

金融市場では事前にこうしたシナリオを回避するポジション取りも相当進んでいたため、投票結果を受けて欧州地域への投資を再構築する動きが比較的大きくなったものとみています。

フランスの選挙が問うたのは、金を払ってでもEUを続けるかという問題だった

我々は今回のフランス大統領選挙の意味するところは大きいと分析しています。それは、この選挙イベントが、欧州域内の「与える側の国」でEU(欧州連合)というシステムの存続の是非を問う意味合いがあったからです。

欧州域内では各国がEU予算へ資金を拠出し、それを再分配する仕組みがあります。図表の通り、ドイツ、フランス、オランダは「資金の出し手の国」である一方、ギリシャやスペインは「資金を受け取る国」です。

これまでの欧州の課題は、ギリシャ危機をはじめ、どちらかというと「資金を受け取る国」で補助を受けてもなお信用力が弱いという問題でした。

一方で、2017年に入りフランス、オランダ1の選挙で問われたのは、地域の利益よりも自国の利益を優先する風潮により、「資金の出し手の国」が他国への支援に後ろ向きになっていないかという点でした。

フランス、オランダのイベントを経て、EUの枠組みは維持される流れに向かう

我々は、オランダとフランスの投票結果を受けて、欧州の民意はEUの枠組みを維持する方向にあると解釈しています。米国の孤立主義の強まりや、ロシアやトルコが経済的苦境を脱しつつあることを踏まえると、外交や国防の観点からも、EUの枠組みが維持されることで加盟各国が享受する利益はなお高い環境にあります。

1 2017年3月に行われたオランダ総選挙では、反EU派への支持が伸び悩みました。

欧州投資がしばしの間は脚光を浴びそうだが、イタリア総選挙のリスクは軽視できない

欧州からみて大西洋の向こう側では、米ドル高への口先介入が強まってきたことや、2017年1-3月期は一部の米経済指標に悪化もみられたことから、米国資産の先高観に陰りを見る向きもあります。

当面は、米国との比較感からも、欧州への投資の魅力が高まりそうです。

今後は、欧州の政治リスクは沈静に向かうと想定すべきでしょうか?

図表から、EU主要国の雇用環境に大きな温度差があることが読み取れます。EUにとどまることで各国は利益を得るものの、EU域内の格差問題は解決していません。今回の投票でも、従来フランス政治を主導してきた二大政党の候補が敗退しており、現状に対する不満はそれなりに強いことが窺えます。

従って、2018年5月までに実施されるイタリアの総選挙が材料として浮上すれば、欧州地域への投資に対する警戒感が再び高まることを念頭に置くべきでしょう。

EUのあり方が変化し、再び各国のファンダメンタルズが重要になる

より長期の観点に立つと、EUが分裂へ向かうような極端な事態は憂慮するに及ばないと考える一方で、EU加盟各国の結束が弱まって各国の違いがより多く許容されていく「マルチスピードのEU」シナリオを我々は想定しています。

欧州投資にあたっては、ECB(欧州中央銀行)の動向やEUの政治情勢が、域内各国の経済ファンダメンタルズよりも重要な局面が続いています。しかし、この新たなシナリオにおいては、上述の要因に加えて、域内各国の信用力や経済情勢の違いも重要視すべき時代がやってくると考えています。

以上

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