米国大統領選挙後のカナダ債券・為替市場の状況と今後の見通し

  • マーケットレター
  • 2016年11月

最近の市場動向について

米国の大統領選挙は11月8日(現地、以下同様)に実施され、事前の報道や金融市場での予想を覆し、共和党のトランプ氏が勝利しました。また、同時に実施された米国議会選挙の結果、上院・下院ともに共和党が過半数を占め、大統領府と議会のねじれ関係が解消する運びとなりました。

この結果、トランプ氏が選挙戦中に主張していた減税や、インフラ(社会基盤)投資を軸とした成長促進策が実行に移される期待が高まりました。選挙後、金融市場では米国の景気拡大や物価上昇を織り込む動きが強まりました。

カナダの金融市場も、米国と同様に金利上昇と円安の動きとなりました。北米地域での景況感の改善期待に加え、11月末のOPEC(石油輸出国機構)総会での原油減産合意期待を背景とした原油価格の反発も、カナダ・ドルにとってはプラス材料となりました。また、米国大統領選挙前はトランプ氏の保護貿易政策が警戒されてカナダ・ドルを買いにくい環境にあったこともあり、選挙後の期間においてカナダ・ドルは他の主要通貨との比較でも高い上昇率となり、対円の上昇率は米ドル円に近い水準となりました。

米国新政権のカナダ経済への影響

来年1月20日にトランプ新大統領が正式に就任した後、新大統領の一般教書演説や予算教書発表を通じて新政権の具体的な政策が徐々に明らかにされます。従って、当面の金融市場は今後の米国の各種政策についての観測に振らされると想定します。しかしながら、トランプ氏の選挙期間中の公約をもとにすると、米国新政権は以下の三点でカナダ経済へ影響を持つと考えられます。

・成長促進戦略の採用による北米経済の活性化

・保護貿易主義によるカナダと米国の間の貿易鈍化のおそれ

・規制緩和によるエネルギー関連ビジネスの再加速

一点目の成長促進戦略とは、具体的には減税やインフラ投資などの施策により米国の需要を喚起する政策を指します。カナダと米国は製造業において原料の調達や製造・流通の工程を共有しているケースも多く、また、カナダ企業は米国の消費市場向けのビジネスを展開しています。このため、米国の需要喚起により、カナダにも需要喚起効果が期待されます。

二点目の保護貿易主義ですが、カナダと米国はNAFTA(北米自由貿易協定)に加盟しており、ほとんどの関税が撤廃されている状態にあります。これに対して、米国のトランプ新政権が自国産業保護のために協定の再交渉を求める可能性が懸念されています。ただし、トランプ氏は保護貿易政策に際してメキシコや中国を名指しするなど、背景には「貿易不均衡の是正」を問題視する姿勢があるとみられます。米国のカナダに対する貿易赤字はこれらの国に対して相対的に小さく、トランプ氏からカナダに関する発言が無いこともあり、米国とカナダの貿易関係への影響はまだ不明です。このため、選挙後の為替の動きはメキシコ・ペソとカナダ・ドルで大きく異なるものになっています。

現状は米国とカナダは補完関係にあり、米国の保護貿易姿勢の強まりがカナダにどのような影響を及ぼすかは、投資判断として考慮できる段階にないと考えています。

三点目の規制緩和ですが、環境問題重視のオバマ政権に対してトランプ氏は経済や雇用重視の姿勢であるとみられています。選挙中の公約でも、カナダからテキサス州に原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」建設計画の承認が盛り込まれています。カナダにとっては対米国のエネルギー関連ビジネスの見通しが明るくなるとみられ、カナダ経済にはプラスの材料と考えています。

今後の見通し

2017年の経済成長については、IMF(国際通貨基金)などにより、今年度からの緩やかな加速の見通しが示されています。新興国経済の成長回復が本格化しない一方で、トランプ政権下の米国では財政刺激策を含む成長促進策が想定され、北米経済にとってのプラス材料が加わります。当レポートで指摘した通り、トランプ政権で期待される政策のうちいくつかはカナダに有利な内容になる可能性があり、カナダをめぐる環境は良好とみています。カナダ景気の回復が進むとともに、金利は上昇が続くとみています。

また、世界的なエネルギーの需給は供給過剰から均衡へ調整する過程にあり、産油国による生産調整への動きが一時的にこの調整を早める可能性もあります。従って、資源国通貨の反発は継続を見込みます。「北米経済の優位性」を背景に、安定した経済ファンダメンタルズと資源価格への関連性を兼ね備えるカナダ・ドルは選好されやすいと考えています。

以上

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