英国の金融緩和について

  • マーケットレター
  • 2016年08月

利下げ、新たな資金供給の枠組み、社債購入、国債購入枠拡大のパッケージ

BOE(イングランド銀行)は8月3日(現地、以下同様)に終了した金融政策委員会で強力な金融緩和のパッケージを決定し、4日に公表しました。決定事項は以下の4点です。

①政策金利を0.5%から0.25%へ引き下げ(全会一致)

②BOEから銀行への新たな資金供給の枠組みの創設(全会一致)

③事業会社の社債を最大100億英ポンド購入(8対1の票決)

④国債の購入枠を3,750億英ポンドから4,350億英ポンドへ600億英ポンド拡大(6対3の票決)

市場は①0.25%ポイントの利下げはほぼ織り込んでいましたが、④国債の購入枠については据え置きと増額で見解が二分されていました。また、コンセンサスが形成されていたわけではありませんが、それ以外の措置もある程度期待されていたとみられます。

①政策金利について

政策金利については、4日に公表されたインフレ報告書での見通しに沿って経済が推移した場合、メンバーの過半が追加利下げを想定していると記されました。ただし、現時点で判断している政策金利の下限はゼロを少し上回る水準とし、マイナス金利には否定的です。

②銀行への新たな資金供給の枠組みについて

銀行への新たな資金供給の枠組みについては、政策金利がゼロ近傍に達する中、銀行が預金金利を十分に引き下げられずBOEの利下げが貸出金利に十分に転嫁されない、あるいは銀行の収益が悪化するといった事態を避けるために打ち出された措置と説明されています。具体的には、2016年6月末から2017年末にかけて貸出残高を減らさないことを条件に、BOEから政策金利で4年間、貸出残高の5%まで借り入れが可能な制度です。貸出残高が減少した場合は、1%の減少につき借入金利が0.05%ポイント(最大で0.25%ポイント)引き上げられるため、銀行が貸出残高を増加させる誘因にもなり得ます。利用期間は2018年2月までの18カ月間が予定されていますが、延長するかどうかを2017年8月までに決定するとの方針です。BOEは約1,000億英ポンドの利用を見込んでいます。

③社債の購入について

社債の購入については、投資適格級の事業会社の英ポンド建て社債約1,500億英ポンドが対象で、英国経済に「重要な貢献」をした企業の社債を購入することで、企業の借り入れコストの低下に直接・間接に寄与します。また、大企業の社債発行を促すことで、中小企業への銀行の貸出余地を増す効果も期待されています。9月半ばからの購入開始で、18カ月で最大100億英ポンドの購入が予定されています。

④国債の購入枠について

国債の購入枠は2012年7月以降、3,750億英ポンドで据え置かれてきましたが、600億英ポンド拡大し、今後6カ月間で4,350億英ポンドまで購入します。国債利回り、ひいては金利体系全体の一段の低下が期待されます。

①~④の諸措置は相互に関連しており、①の利下げに関してだけでなく、②~④の各措置についても拡大余地があるとしています。

インフレ率の一時的上振れを許容しつつ、景気下支えを優先

カーニーBOE総裁が「例外的」と形容する程に強力な金融緩和のパッケージを打ち出した要因は、景気見通しの大幅な悪化です。国民投票後の経済活動に係る公式の統計はいまだ得られませんが、いくつかの景況感指数は英国経済の当面の大幅な下振れの可能性を示唆しています。一方で、国民投票後の急速な英ポンド安は当面のインフレ率の押し上げに寄与します。BOEはこの様な景気下振れとインフレ率の上振れとの相反する状況を勘案した上で、インフレ率が一時的に2%を上回るコストを許容してでも、当面の需要の弱さの程度に鑑み、景気下支えを優先しました。金融緩和は当面の需給ギャップを縮小させるためだけでなく、継続的な総需要の不足が中期的なインフレ率の引き下げをもたらすリスクに鑑み、インフレ率が見通しの期間(3年)を超えて再び目標を下回らないことを確実にするためと説明しています。

マイナス成長は回避

市場が織り込む政策金利を前提に、今回の措置を勘案した上での、BOEによる景気・インフレの見通しは中央値で次の通りです。

GDP(国内総生産)成長率(暦年)は、2016年から順に2.0%、0.8%、1.7%と、5月のインフレ報告書での2.0%、2.2%、2.2%から、特に2017年について大幅に下方修正されました。それでも、2016年の後半を含め、今回の措置でマイナス成長は回避されるとの見通しです。

インフレ率(10-12月期の前年同期比)は2016年から順に1.3%、2.0%、2.4%と、5月時点の0.9%、1.8%、2.2%から上方修正されました。

6月末の講演でカーニー総裁が想定していた通り、従前に比して、景気は下振れ、インフレ率は上振れの軌道です。

賢明な見切り発車

国債の購入枠の拡大に反対した3名は、国民投票直後のデータは経済の弱さを過大評価している可能性があり、追加データを待ってからの対応を主張しましたが、BOEは半ば見切り発車で、強力な金融緩和のパッケージを打ち出しました。もちろん、EU(欧州連合)離脱の手続き一つとっても不透明感が強く、今後の英国の政治・経済情勢は予断を許しませんが、低金利下で追加的な金融緩和余地が相対的に限られる中、低成長の長期化に伴うインフレ率の下振れリスクに鑑みれば、賢明な対応と考えられます。市場は債券高(利回り低下)、株高、英ポンド安で反応しました。

以上

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